コーヒーの知識

コーヒー豆はどうやってできる?種からカップまでの全工程

コーヒーチェリーの収穫から精製、焙煎、そしてカップに注がれたコーヒーまでの全工程を一望できる俯瞰図。アジア系の男女が作業する風景と、広大なコーヒー農園の夕景。

普段、私たちが何気なく飲んでいるコーヒー。「これって、もともとどうやってできてるんだろう?」と素朴な疑問を持ったことはありませんか?

実は、驚くかもしれませんが、コーヒー豆は「豆」ではないんです。正しくは、コーヒーノキという植物に実る、さくらんぼのような真っ赤な果実(コーヒーチェリー)の中にある「種子」なんですよ。この事実を知った時、私も「え、じゃああの果肉はどこへ?」とすごく驚きました。

コーヒーチェリーが食べられるのか、その味は?といった素朴な疑問から、コーヒー豆が育つ栽培方法、そしてあの豊かな風味を決定づける「精製」や「焙煎」という謎多きプロセスまで、知れば知るほど奥深い世界が広がっています。

この記事では、「コーヒー豆はどうやってできるのか?」という根本的な疑問について、その全工程を「種」から「一杯のコーヒー」になるまで、できるだけ分かりやすく、旅をするように紐解いていきますね。

ポイント

  • コーヒー豆の正体がコーヒーノキの種子だと分かる
  • 栽培から収穫までの流れが理解できる
  • 風味を左右する「精製」と「焙煎」の仕組みが分かる
  • コーヒーに関する安全な取り扱い方(ペットへの注意点)が分かる

コーヒー豆はどうやってできる?果実から栽培まで

まずは、コーヒー豆が「コーヒーノキ」という植物から、どのようにして「実」になり、収穫されるのかを見ていきましょう。「豆」と呼ばれる前の、その驚くべき姿に迫ります。私たちが知っている豆の姿になるまでには、まだ長い道のりがありますよ。

コーヒー豆の正体はコーヒーノキの種子

コーヒーチェリーから生豆、そして焙煎されたコーヒー豆へと変化していく過程を示すコラージュ画像。アジア系の農園作業員や焙煎士の姿。

改めてお伝えしますが、コーヒー豆は「豆」ではありません。よく勘違いされがちですが、大豆や小豆のようなマメ科の植物ではないんです。

その正体は、アカネ科に属する「コーヒーノキ」という常緑樹に実る、「コーヒーチェリー」と呼ばれる真っ赤な果実の「種子」。これがあのコーヒー豆の本当の姿です。

コーヒーノキは、自然な状態だと5メートル、時には10メートル近くにも成長するそうですが、農園では効率よく収穫作業ができるように、人の背丈くらい(2〜3メートル)に低く剪定(せんてい)されていることがほとんどですね。

コーヒーチェリーの構造

コーヒーチェリーは、外側から順に複雑な層になっています。

  1. 外皮(がいひ):一番外側の赤い皮。
  2. 果肉(パルプ):皮のすぐ下にある、甘みのある果肉の部分。
  3. 粘液質(ミューシレージ):果肉の内側にある、ネバネバした粘液の層。
  4. 内果皮(パーチメント):種子を包む、硬くて薄い殻のような部分。
  5. 銀皮(シルバースキン):パーチメントの内側にある、さらに薄い皮。焙煎するとチャフとして剥がれます。
  6. 種子(生豆):中心部にある、私たちが最終的に目にする部分。

通常、1つのコーヒーチェリーの中には、平らな面を向かい合わせにした2つの種子(生豆)が入っています。これが「フラットビーン」と呼ばれる一般的な形ですね。

豆知識:丸い豆「ピーベリー」とは?

ごく稀にですが、チェリーの中で種子が2つに分かれず、1つだけ丸く育つことがあります。これを「ピーベリー(丸豆)」と呼びます。

全体の数%しか取れないため希少価値があるとされ、通常のフラットビーンとは分けて取引されることもあります。風味が凝縮しているとも言われ、珍重されていますよ。

コーヒーチェリーは食べられる?味は?

コーヒー豆が果実の種子なら、「その果実(コーヒーチェリー)は食べられるの?」と気になりますよね。私もすごく気になって調べてみました。

はい、食べられます!

完熟したコーヒーチェリーの果肉(パルプ)は、ほんのりとした甘酸っぱさがあり、「スイカやローズウォーターのよう」と表現されることもあるようです。ただ、残念ながら果肉の部分がとても少なく、種子が大部分を占めているため、果物として市場に流通することはまずありません。産地の人々の貴重なおやつ、といった感じでしょうか。

カスカラティーとは?

最近では、このコーヒーチェリーの果肉や皮を乾燥させて、お茶のように楽しむ「カスカラ(Cascara)」が注目されています。「カスカラ」とはスペイン語で「殻」や「皮」を意味します。

「カスカラティー」としてお湯出しや水出しで飲むと、ローズヒップティーやチェリーティーに似た、甘酸っぱくフルーティーな味わいがするそうです。カフェインも含まれていますが、コーヒー豆から抽出したものよりは少ないと言われていますね。コーヒー農園の副産物を活用する、サステナブルな取り組みとしても広がっています。

【最重要】ペットへの安全性について

ここで、非常に重要な注意点をお伝えします。

コーヒーノキの「植物自体」(葉や茎など)は、人間にとって有毒ではありません。しかし、コーヒーの実や種子(豆)に含まれる「カフェイン」や「テオブロミン」といった成分は、犬や猫などのペットにとって非常に有毒です。

人間とは代謝の仕組みが異なるため、ペットがこれらを摂取すると、嘔吐、下痢、興奮、けいれん、心拍数の異常などを引き起こす可能性があり、最悪の場合は命に関わります。体重あたりの致死量も報告されており、非常に危険です。(出典:ASPCA - People Foods to Avoid Feeding Your Pets

観葉植物としてコーヒーノキを育てる際は、ペットが実や葉を絶対に口にしないよう、置き場所には最大限の注意を払ってください。また、焙煎豆や抽出後のコーヒーかすも、ペットの手の届かない場所に厳重に管理してください。万が一、ペットが口にした疑いがある場合は、すぐに獣医師に相談してくださいね。

コーヒー豆の栽培に適したコーヒーベルト

地図上でコーヒーベルトと呼ばれる赤道付近の地域が鮮やかに色付けされ、主なコーヒー生産国が示されている世界地図。

 

コーヒーノキは、どこでも簡単に育つわけではありません。コーヒーの栽培には、非常にデリケートな気候条件が求められます。

主な栽培地は、赤道を挟んだ北緯25度から南緯25度の間の、熱帯・亜熱帯地域に集中しています。この一帯は、その形状から「コーヒーベルト」と呼ばれています。

この地域は、コーヒーの生育に不可欠な条件が奇跡的に揃っている場所が多いんです。

  • 温暖な気候:年間平均気温が15℃〜25℃程度で、霜が降りないこと。
  • 適度な雨量:年間降水量が1,500mm〜2,500mm程度と、十分な水分があること。
  • 水はけの良い土壌:根腐れを防ぐため、水はけが良く、有機質に富んだ弱酸性の土壌が適しています。
  • 適度な日照と寒暖差:特に品質の高いアラビカ種は、標高の高い場所(シェードツリーなどで日照が調整された場所)で育ちます。日中と夜間の寒暖差が大きいほど、コーヒーチェリーがゆっくりと成熟し、糖分や酸味、風味成分がぎゅっと凝縮されると言われています。

ブラジル、ベトナム、コロンビア、エチオピア、インドネシアなど、私たちがよく耳にする有名なコーヒー生産国は、すべてこのコーヒーベルトに位置しています。

品種の違い(アラビカ種とロブスタ種)

アラビカ種とロブスタ種のコーヒーノキ、それぞれの特徴的な葉やコーヒーチェリーを並べて比較している画像。

コーヒーには100を超える品種(種)があると言われていますが、商業的に世界中で栽培され、私たちが主に飲んでいるのは、たったの2種類です。それが「アラビカ種」と「ロブスタ種(カネフォラ種)」です。

この2つの違いを知っておくと、コーヒー選びが格段に楽しくなりますよ。

アラビカ種 (Coffea Arabica)

世界のコーヒー生産量の約6〜7割を占める、最もポピュラーな品種です。(出典:国際コーヒー機関(ICO)の統計に基づく一般的な比率)

私たちが「スペシャルティコーヒー」などで楽しむ、豊かな風味、華やかな香り、心地よい酸味、そして甘い余韻は、主にこのアラビカ種の特徴です。エチオピアが原産とされています。

ただし、非常にデリケートで、病気の「さび病」や害虫、気候変動(特に高温)に弱いという弱点があります。そのため、栽培条件が厳しい標高の高い涼しい場所(標高1,000m〜2,000m程度)で、多くの手間ひまをかけて栽培されています。

ロブスタ種 (Coffea Canephora)

世界の生産量の約3〜4割を占めます。その名の通り「ロバスト(Robust)=頑強」で、病気や害虫に強く、高温多湿な低地(標高800m以下)でも元気に育ちます。

風味はアラビカ種とは対照的で、ガツンとした苦味と、麦を焦がしたような独特の香りが特徴です。酸味はほとんどありません。そして最大の特性は、カフェインの含有量がアラビカ種の約2倍と非常に多いことです。

その特性から、主にインスタントコーヒーや缶コーヒー、エスプレッソ用のブレンド豆(クレマを出すため)に、力強さやパンチを加える目的で使われることが多いですね。

アラビカ種とロブスタ種の比較表

項目 アラビカ種 ロブスタ種
生産比率 約60-70% 約30-40%
主な栽培地 高地(1,000〜2,000m) 低地(〜800m)
耐病性・耐気候性 弱い(デリケート) 強い(頑強)
カフェイン含有量 少ない(約1.5%) 多い(約2.7%)
風味の特徴 豊かな酸味、甘み、香り 強い苦味、独特の香り
主な用途 レギュラーコーヒー全般 インスタント、缶コーヒー、ブレンド用

白い花が咲き、実を収穫するまで

満開の白いコーヒーの花が一面に咲き誇る農園で、アジア系の農夫たちが赤いコーヒーチェリーを手摘みしている風景。

コーヒーノキは、種を植えてから収穫できるようになるまで、なんと3〜5年もかかります。そして、年に1度(地域によっては2度)、雨季が終わる頃に開花の時期を迎えます。

ジャスミンのような開花

コーヒーノキの花は、ジャスミンのようなとても甘く芳醇な香りのする、真っ白で可憐な花です。農園が一斉に開花すると、まるで雪が積もったように真っ白になり、素晴らしい香りに包まれるそうですよ。ただし、花は非常に繊細で、咲いてからわずか2〜3日で散ってしまいます。

実りの時と収穫

花が散ると、そこに緑色の小さな実ができ、そこからゆっくりと熟していきます。緑色の実が、黄色、オレンジ色、そして鮮やかな赤色(または品種によっては黄色)の「コーヒーチェリー」として完熟するまで、アラビカ種で約9ヶ月、ロブスタ種ではそれ以上かかることもあります。

完熟したチェリーは、いよいよ収穫です。収穫方法は、大きく分けて2つあります。

  • 手摘み(ハンドピッキング) 熟練の作業員が、完熟したチェリーだけを一粒ずつ見極めて丁寧に摘み取る方法です。非常に手間とコストがかかりますが、熟度が均一な高品質のコーヒー豆を得ることができます。スペシャルティコーヒー用の豆の多くは、この方法で収穫されています。
  • 機械収穫(メカニカルハーベスト) ブラジルのような広大で平坦な農園では、大きな収穫機を使って木を振動させ、実を一気にこそぎ落とす方法が取られます。効率は非常に良いですが、完熟豆も未熟豆も一緒に収穫してしまうため、その後の選別が重要になります。

コーヒー豆はどうやってできる?精製から焙煎まで

収穫したコーヒーチェリーは、まだ私たちが知るコーヒー豆ではありません。ここからが、コーヒーの個性や風味を決定づける最も重要な「精製」、そして「焙煎」の工程です。コーヒー豆がどうやってできるのか、その核心に迫っていきますよ。

風味を決める精製方法(ウォッシュド)

ウォッシュド方式で精製を行うコーヒー農園で、アジア系の作業員が大きな水槽でコーヒー豆を発酵・洗浄している様子。

「精製(せいせい)」または「プロセス」とは、収穫したコーヒーチェリーから種子(生豆)を取り出す、一連の加工作業のことです。この方法の違いが、コーヒーの味に最も大きな影響を与えると言っても過言ではありません。

「ウォッシュド(水洗式)」は、その名の通り、水を大量に使って精製する方法です。現代的な精製方法で、多くの国で採用されています。

  1. 果肉除去(パルピング):まず、「パルパー」と呼ばれる機械を使って、コーヒーチェリーの果肉を強制的に除去します。
  2. 発酵(ファーメンテーション):果肉が取れた種子(この時点では「パーチメントコーヒー」と呼ばれます)は、水槽に入れられ、12〜48時間ほど水に浸けられます。この間に、種子に付着したネバネバの粘液質(ミューシレージ)が、微生物の働きによって発酵・分解されます。
  3. 水洗(ウォッシング):発酵が終わったら、きれいな水でミューシレージを完全に洗い流します。
  4. 乾燥(ドライング):洗浄されたパーチメントコーヒーを、パティオ(乾燥場)やアフリカンベッド(高床式の乾燥棚)で乾燥させます。

この工程により、発酵による雑味や不快な匂いの元が洗い流されるため、クリーンな酸味とスッキリとした透明感のある風味が際立つコーヒー豆になりやすいのが特徴です。その土地のテロワール(土壌や気候)が素直に現れやすい精製方法とも言えますね。

風味を決める精製方法(ナチュラル)

「ナチュラル(乾燥式)」は、最も古くからある、最もシンプルな精製方法です。コーヒー発祥の地エチオピアや、水資源が貴重な地域、またブラジルなどで伝統的に行われています。

工程は非常にシンプルです。

    1. 乾燥(ドライング):収穫したコーヒーチェリーを、そのままの状態でパティオ(乾燥場)やアフリカンベッドに広げ、数週間かけて天日乾燥させます。(途中でカビが生えたり、不均一な発酵が起きたりしないよう、定期的に攪拌(かくはん)する高度な技術が必要です)
    2. 脱穀(ハリング):カラカラに乾燥しきったチェリーを、機械で砕き、外皮・果肉・内果皮(パーチメント)を一度にまとめて取り除き、生豆を取り出します。
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この方法では、乾燥させる間に、果肉の糖分や風味がゆっくりと種子(生豆)に移ると言われています。そのため、ウォッシュドに比べて、果実味あふれる、ワインやベリーのような複雑な香りと、濃厚な甘みを持ったコーヒー豆になりやすいのが特徴です。

第3の精製方法「ハニープロセス」

近年では、ウォッシュドとナチュラルの中間的な方法として、「ハニープロセス(パルプドナチュラル)」も人気です。

これは、果肉だけを機械で取り除き、ネバネバの粘液質(ミューシレージ)が付いたまま乾燥させる方法です。このミューシレージの甘さを「ハニー(蜂蜜)」に例えてこう呼ばれています。

ミューシレージの残し方によって、ブラック、レッド、イエローハニーなどに分類され、ウォッシュドのクリーンさとナチュラルの甘さを併せ持つような、バランスの良い独特の風味を生み出すと言われていますよ。

乾燥させて「生豆(なままめ)」にする

精製方法(ウォッシュド、ナチュラルなど)を問わず、最終的に生豆を取り出す前段階の、内果皮(パーチメント)に包まれた状態の豆を「パーチメントコーヒー」と呼びます。この状態で一定期間保管し、豆の状態を落ち着かせることもあります。

そして、出荷される直前に「脱穀(だっこく)」という工程で、この硬いパーチメントを取り除きます。こうしてようやく現れるのが、私たちが「生豆(なままめ、きまめ)」と呼ぶ、薄緑色をした種子です。

この生豆は、輸送や長期間の保管中にカビが生えたり、品質が著しく劣化したりしないよう、水分量が10〜11%程度になるまで、厳密に管理されながらしっかりと乾燥させられます。この水分管理こそが、コーヒーの品質を保つ上で最も重要な作業の一つなんです。

豆知識:コーヒー豆から自宅栽培はできる?

「この生豆を植えたら、家でコーヒーノキが育つのでは?」と誰もが一度は考えるかもしれません。私も挑戦しようと思ったことがあります。

しかし、残念ながら、私たちが焙煎用に購入する「生豆」から発芽させるのは非常に困難です。なぜなら、先述の通り、発芽に必要な水分率(15%以上、理想は20%以上とも)を大きく下回るまで、カラカラに乾燥させられているからです。これは、発芽能力を失わせるための処理でもあるんですね。

もしご自宅での栽培に挑戦するなら、収穫したての新鮮なコーヒーチェリーか、あるいは乾燥させすぎていない「パーチメントコーヒー」を入手する必要があります。それでも発芽まで数ヶ月、実がなるまで数年と、大変な忍耐が必要なようです。

生豆の品質を分ける「選別」と「格付け」

乾燥が終わり、脱穀された生豆は、そのまま麻袋に詰められて出荷されるわけではありません。ここからが、コーヒーの価格と品質を決定づける、非常にシビアな「選別」と「格付け」の工程です。

サイズによる選別(スクリーン)

まず、生豆は「スクリーン」と呼ばれる、大きさの異なる穴が開いたふるいにかけられ、豆の大きさ(サイズ)ごとに分けられます。

なぜサイズを揃えるのかというと、豆の大きさが揃っていないと、焙煎する際に火の通り方が不均一になり、味に深刻なムラができてしまうからです。スクリーン16(穴のサイズが16/64インチ=約6.4mm)など、豆のサイズは国際的な番号で管理されています。

欠点豆による格付け

次に、比重選別機などで重さ(密度)によって選別され、色彩選別機で色の異なる豆が弾かれます。そして最後は、熟練した作業員たちの目と手によって、カビ豆、虫食い豆、未熟豆、発酵豆、黒豆、石や木片といった異物など、「欠点豆(ディフェクト)」が丁寧に取り除かれます(ハンドピック)。

この欠点豆が、一定量(例:300g)の中にどれだけ少ないかによって、コーヒー豆の「格付け(グレード)」が厳密に決まります。

格付けの一例(国や基準によって異なります)

格付け基準 内容
SCAA(米国スペシャルティコーヒー協会) 最高品質の「スペシャルティグレード」は、欠点豆の数がごくわずか(プライマリーディフェクトがゼロ、かつクエーカーが5個以下など)で、カップテストで80点以上を獲得したもの。
ブラジル(欠点豆の数) No.2(欠点豆が最も少ない)〜 No.8(欠点豆が最も多い)まで分類されます。「No.1」は理論上存在するものの、現実には流通していません。
コロンビア(豆のサイズ) スクリーンサイズで格付けされ、最も大きい「スプレモ」、次に大きい「エクセルソ」などがあります。

ハンドピックの重要性

どれだけ機械化が進んでも、最終的な品質は人の手による「ハンドピック」に懸かっていると言っても過言ではありません。私たちが美味しいスペシャルティコーヒーを飲めるのは、生産地の方々が気の遠くなるような手間をかけて、一粒一粒、欠点豆を取り除いてくれているおかげなんですね。

おなじみの豆になる最終工程「焙煎」

専門の焙煎機を使い、真剣な表情でコーヒー豆の焙煎度合いを確認するアジア系の焙煎士。横にはラテアートが施されたカップコーヒー。

こうして厳しく選別され、格付けされた生豆は、品質を保持するための麻袋(グレインプロと呼ばれる高機能な袋と二重にすることも多い)に詰められて、船で世界中に出荷されます。

そして、私たちの国のロースター(焙煎士)のもとに届き、ようやく、コーヒー豆が完成する最終工程「焙煎(ロースト)」を迎えます。

風味を生む化学変化

生豆は、そのままでは青臭く、硬くて、コーヒーの風味はほとんどありません。これを高温の焙煎機で煎る(いる)ことで、あの香ばしい香りと豊かな風味が生まれます。

焙煎中、豆の内部では非常に複雑な化学変化が起こっています。

      • メイラード反応:豆に含まれる「糖」と「アミノ酸」が加熱されることで起こる反応。コーヒー特有の褐色や、豊かなコク(メラノイジン)を生み出します。
      • カラメル化:糖がさらに加熱されて起こる反応。甘さや、カラメルのような香ばしい香りを引き出します。
      • ストレッカー分解:メイラード反応に伴って起こる反応で、コーヒーの魅力的な「アロマ(香り)」や「フレーバー(風味)」に不可欠な成分(アルデヒドやケトンなど)を生成します。

焙煎士は、これらの化学反応を秒単位でコントロールし、豆の持つポテンシャル(酸味、甘み、苦味、香り)を最大限に引き出しているんです。

焙煎度合いによる違い

焙煎の時間や温度(焙煎度合い)によって、風味は劇的に変わります。一般的に、焙煎は8段階に分けられます。

焙煎の8段階と風味の変化

  • 浅煎り(ライトロースト、シナモンロースト) 最も焙煎が浅い段階。豆本来のフルーティーな酸味や香りが最も際立ちます。苦味はほとんどありません。カフェインは熱で分解される時間が短いため、比較的多く残っています。
  • 中煎り(ミディアムロースト、ハイロースト) 酸味と苦味のバランスが取れ始め、甘みやコクも感じられるようになります。レギュラーコーヒーとして最も一般的な焙煎度合いかもしれません。
  • 中深煎り(シティロースト、フルシティロースト) 酸味は穏やかになり、苦味とコクが強まってきます。香ばしさが増し、エスプレッソなどにも使われ始めます。
  • 深煎り(フレンチロースト、イタリアンロースト) 最も焙煎が深い段階。苦味が支配的になり、強い香ばしさやスモーキーな風味が特徴です。酸味はほとんど感じられなくなります。豆からは油分が滲み出てテカテカ光っています。

この焙煎を経て、あの薄緑色だった生豆は、ようやく私たちが知る茶色い「コーヒー豆」として完成するのです。

コーヒー豆はどうやってできるかが分かる全工程

今回は、「コーヒー豆はどうやってできるのか?」という大きな疑問を、コーヒーノキという植物の「種」から、カップに注がれるまで、その全工程を追って見てきました。

コーヒーが、単なる「豆」ではなく、コーヒーベルトという限られた地域で育つ「コーヒーチェリー」という果実の「種子」であり、たくさんの人々の手によって、栽培、収穫、精製、選別、そして焙煎という、長く複雑な旅をしてきたことがお分かりいただけたかなと思います。

コーヒー豆ができるまでの全工程まとめ

  1. 栽培:コーヒーベルトでコーヒーノキ(アラビカ種、ロブスタ種など)が育てられる。
  2. 開花:ジャスミンのような香りの白い花が咲く。
  3. 結実:コーヒーチェリーが実り、約9ヶ月かけて完熟する。
  4. 収穫:完熟したチェリーが手摘みや機械で収穫される。
  5. 精製:果実から種子を取り出す(ウォッシュド、ナチュラル、ハニーなど)。この工程が風味を大きく左右する。
  6. 乾燥:生豆の水分率を、品質保持のため10〜11%まで厳密に乾燥させる。
  7. 選別・格付け:サイズ(スクリーン)や欠点豆の数で、生豆の品質が厳しく管理される。
  8. 焙煎:生豆を煎ることで化学反応が起こり、特有の風味と香りが生まれる。

これからはスーパーやカフェでコーヒー豆のパッケージを見るとき、そこに「エチオピア ナチュラル」や「コロンビア ウォッシュド」、「ブラジル No.2」といった情報が書かれていたら、その豆が辿ってきた壮大な旅の風景が思い浮かぶかもしれません。

次にコーヒーを飲むときは、その一杯の向こう側にある物語に思いを馳せてみると、いつものコーヒーが、また違った特別な味わいに感じられるかもしれませんね。

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